海事Q&A 事故調査報告書と証拠制限(日本海事補佐人会会誌第13号 巻頭の挨拶)

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海事に関するよくある質問

事故調査報告書と証拠制限(日本海事補佐人会会誌第13号 巻頭の挨拶)

 IMOの新事故調査コードによるSOLAS条約改正に伴い、それまでの事故原因の究明と船員等に対する懲戒を目的とした海難審判庁が、懲戒を行う海難審判所と原因究明を行う運輸安全委員会(以下「委員会」)に分離、再編されてから5年めになる。事故原因の究明のためには関係者の真実の供述が必要であり、懲戒という処分の根拠になるのではそれが期待できない、というのが主たる理由とされている。
 もとより懲戒のためにも原因究明は必要だが、その点については、懲戒と分離されるのは、あくまで再発防止のための原因究明(過失の認定はしない)であって、責任追及のための原因究明(過失の有無を認定する)ではない、とされている。それに沿い、委員会には罰則も伴う強力な処分権限が与えられている。その結果、現実に客観的・科学的な原因が究明されて将来の海難の防止が図られ、合わせて事故調査の国際協力にも資するなら、それ自体なんら異論はない。
 しかし、再編の趣旨が上記のとおりならば、関係当事者の任意の供述を重要な基礎とする委員会の事故調査報告書等の調査記録は、その後の行政(海難審判)、刑事、及び民事事件において、少なくとも受審人に不利益な方向では、証拠として流用されるべきではない(受審人に有利な利用については議論がありうる。)。将来の海難の再発防止のためにと不利益も省みずに供述した内容が、後に自らの処分の根拠にされたのではたまらない。それは、基本的人権の侵害になると共に、関係者への萎縮効果も発生し、結局客観的・科学的な原因究明自体を阻害することにもなろう。
 この点、委員会設置法18条1項では、航空事故調査について国際民間航空条約(シカゴ条約)に準拠するとされ、同条約第13附属書5.12 では、調査記録の非公開、目的外の利用禁止が規定され、さらにその脚注で、懲戒、民事、及び刑事等の処分に不適切に利用される危険性につき注意が喚起されている。IMOの前記コードも、上記附属書と軌を一にするものである。
 以上、海難審判においても、その懲戒処分が今後も民事及び刑事の手続に事実上影響する点も斟酌すれば、事故調査報告書等を受審人の不利益な形で証拠とすることには厳しい制限が必要である。そのための立法措置等も必要であろう。