海事Q&A Q&A
海事に関するよくある質問
- 義務なく海難救助した場合に救助料は請求できるのか
船舶は非常に高価な財産であり、貨物も高価な物が多くあります。それが海難に遭遇した場合、他人にはそれを救助する法律上の義務はありません。
しかし、社会経済上も、海上交通の安全上も、救助は当然の要請です。そこで、海難があった場合に救助を奨励するため、義務なくして救助した者に救助料の請求権が与えられています。
沿革的には、それまで遭難物の保護のため刑罰で略奪を禁止するだけだったのが、ルイ14世の海事勅令のときから救助に報酬を与えて積極的に奨励するようになったと言われています。
海難救助が認められるためには、救助が成功したことが必要です。これは「不成功無報酬の原則」(No Cure,No Pay)と言われ、海法の伝統的な原則です。不成功の場合には、実費も含め一切の報酬は請求できません。救助の仮装を避けるのが目的ですが、救助者にとっては救助をためらわせることにもなります。
また、商法では、人命だけの救助は海難救助ではなく、救助料は支払われません。人を救う行為は人間の本能的なもので、お金がもらえるからするものではないためです。ただ、人命救助と財産救助が同時になされた場合は、人命救助に従事した者も船舶又は積荷の被救助者から救助料の分配を受けられます。※ ちなみに、フランス法では、不成功無報酬の原則につき、「救助活動が有益な結果をもたらさなかったときは、いかなる報酬も支払われるべきではない(環境保全に関する特別補償を除く)。」(運送法L5132-3条1項後段)とし、人命救助についても、「救助を受けた者はいかなる報酬も支払う義務はない。」(同法L5132-8条1項)として、日本法よりも明確に規定しています。1910年海難救助条約(第2条2項、第9条1項)も同様です。