海事Q&A Q&A
海事に関するよくある質問
- 商法(運送・海商)改正要綱③ 海上物品運送に関する特則は(Ⅰ)
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- 1 堪航能力担保義務
商法738条は、国内海上運送に関し、船舶所有者は傭船者又は荷送人に対し、発航の当時、船舶が安全に航海を為すに堪えることを担保する、と定め(堪航能力担保義務)、この責任の性質は無過失責任とされています。
その根拠は、船舶の堪航能力は人命や財産を保護して海上航行の安全を確保するという公益上の理由、条文の文言が堪えることを担保するとの表現であること、商法739条が強行法規としていること等です。
しかし、民法では過失責任が原則であること、船舶の構造が立法当時より複雑化・大型化しており、船舶設備等の瑕疵の発見が容易とはいえなくなっていること、国際海上運送では国際海上物品運送法5条で過失責任とされ、国内海上運送の責任と不釣り合いであること等から、立法論としては過失責任とすべきとする考え方が大勢でした。
そこで要綱は、堪航能力担保義務違反による責任を過失責任に改めると共に、その義務の内容として、同法5条1項各号に掲げる事由を明示するものとされました。具体的には①船体能力(狭義の堪航能力、船舶自体が航海に堪える状態にあること)、②運航能力(船員が乗り組み、船舶が航海に必要な装備を備え、航海に要する必需品が準備されていること)、③堪荷能力(船倉等の運送品を積み込む場所が運送品の受入れ、運送及び保存に適する状態にあること)です。
また、堪航能力担保義務に関する規律は、定期傭船にも準用されます。 - 2 免責特約の禁止
商法739条は、国内海上運送に関し、船舶所有者の過失、船員その他の使用人の悪意重過失、及び堪航能力担保義務違反により生じた損害の賠償責任に係る免責特約は無効としています。これによれば、船長その他の使用人の軽過失により生じた損害についてのみ免責特約が可能な訳です。
これは1888年のブリュッセル国際商法会議の決議に基づいたものです。同決議は堪航能力担保義務等につき強行法規化することを各国に採用勧告していましたが、他のほとんどの国が採用しなかったのに、日本はこれに基づき免責特約禁止規定を設けました。
しかしその後1924年の船荷証券統一条約に基づき制定された国際海上物品運送法では、航海上の過失及び船舶での火災により生じた損害については原則として運送人の責任が免除されており、それと比べて商法の規定は著しく運送人に不利益となっていました。また、現在では標準約款が相当に整備された上、海上運送契約の当事者は事業者であることが多く、この規律を削除しても荷主の利益を一方的に害する免責特約がされる危険性は高くはないといえます。
以上から、免責特約を無効とする商法739条は削除されることになりました。
但し、傭船契約に基づき船荷証券が発行された場合の船荷証券所持人は、運送契約当事者間の特約について容易に知り得ないことから、運送人と船荷証券所持人との関係については、堪航能力担保義務違反により生じた損害の賠償責任に関する免責特約は、なお無効のままとされました。
また、個品運送については、外航の個品運送でも堪航能力担保義務が強行規定であり(国際海上物品運送法15条)、荷主側の交渉力等も考慮して、荷主保護のため、堪航能力担保義務については強行規定が維持されることになりました。 - 3 運送品の競売権
- ⑴ 商法757条1項は、船舶所有者は運送賃等の支払を受けるため、裁判所の許可を得て運送品を競売できる、と定めています。
しかし、運送人には裁判所の許可と競売開始手続きを重ねて行う負担が重いため、裁判所の許可という要件は削除されることになりました。 - ⑵ また、この競売権は、船長が荷受人に運送品を引き渡した後でも、引渡の日から2週間以内又は第三者が占有を取得するまでの間は行使できるとされ(同条3項)、行使しないときは運送賃等の請求権を失うとされています(同法758条)。
しかし、運送賃は掛払いとすることが多いことから、運送品の引渡から2週間の経過で競売権及び運送賃等の請求権を失うとするのは問題がある上、そもそも競売権の不行使で運送賃等の請求権自体が消滅することは、運送人の権利を過度に制限するものです。そのため、これらの規律は削除されることになりました。 - ⑶ その結果、商法757条は、「運送人は、荷受人に運送品を引き渡した後も、運送賃等の支払を受けるため、その運送品を競売に付すことができる。但し、第三者が占有を取得したときはこの限りでない。」と改められる見込みです。
- ⑴ 商法757条1項は、船舶所有者は運送賃等の支払を受けるため、裁判所の許可を得て運送品を競売できる、と定めています。
- 1 堪航能力担保義務