海事Q&A Q&A
海事に関するよくある質問
- 商法(運送・海商)改正要綱⑧ 海上物品運送に関する特則は(Ⅱ)
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- 1 海上物品運送契約の当事者
現行商法では、海上運送は、「船舶所有者」が行うものとして規定され、これらは、同法704条1項で船舶賃借人に準用されています。
しかし、現在、荷主と海上運送契約を結ぶのは上記二者に限らず、定期傭船者やフォワーダー等もいます。
そこで、要綱では、海上物品運送契約の運送側の当事者を示す用語を、「船舶所有者」から「運送人」に改めるものとされました。 - 2 航海傭船
- ⑴ 運送契約書の交付義務
商法737条は、航海傭船契約締結の場合に、各当事者は相手方の請求により運送契約書を交付することを要す、としています。
しかし、法律で特に規定せずとも、実務の運用に委ねれば済むこととされ、削除される見込みです。 - ⑵ 船積み及び陸揚げ
商法741条1項、752条1項は、船積み・陸揚げの準備が完了した場合の傭船者に対する通知の主体を、船舶所有者としていますが、実務上は通知は船長によってなされ、船上の状況に基づく判断も船長の方が相応しいので、船長が行うものとされました。
また、船積期間、陸揚期間の起算点及びこれに不可抗力で算入しない期間について、期間計算が日単位となっていますが、実務上、日単位とすることは少ないことから、時間単位とされました。外航の実務にも合わせたものです。 - ⑶ 再運送契約における船舶所有者の責任
商法759条は、内航船の場合に、航海傭船契約を締結した傭船者が、その船腹を利用して更に第三者と運送契約(傭船契約又は物品運送契約)を締結したときは、その契約の履行が船長の職務に属する範囲内である限り、船舶所有者だけが再運送契約上の債務を履行する責任を負う、と定めています。
これによって、船主と第三者との間に直接の法律関係ができ、他方、傭船者はその範囲で再運送人としての責任を免れ、求償関係を簡略化したものとされています。
他方、外航船の場合は、同条は適用除外され(国際海上物品運送法20条1項)、傭船者のみが運送人としての債務を負う(船舶所有者はその履行補助者)とされています。
この点につき、再運送契約の荷主は、契約の相手方である傭船者を信頼して契約を締結したのであって、その傭船者が一定の範囲で責任を免れるのは適切とはいえません。
それで、要綱では、同条は削除される見込みです。そして、再運送契約の荷主は、傭船者に対しては契約責任、船舶所有者に対しては同法690条により不法行為責任を問えるという形で整理されています。 - ⑷ 発航前の任意解除権
- ア 商法745条1項、2項は、発航前に全部航海傭船契約の傭船者は、航海の態様(往復航海・複合航海(船積港へ回航の上運送)か否か)に応じて、運送賃の半額又は3分の2(空運賃)を支払って契約を解除できるとしています。往復航海等の場合は、賠償額が運送賃の半額では足りないためと説明されています。
しかし、航海の態様に応じた区分は相当とはいえないとされ、また、一般に注文者の任意解除権(民法641条)の行使にも、請負人の被る損害の賠償を要するとされています。
それで、要綱では、全部航海傭船契約の場合の発航前の解除につき、まず、運送賃の全額及び停泊料(船積・陸揚期間経過後の停泊に対して運送人が請求できる額)の賠償を求め、仮に、運送人の損害がこれより低いときは、その額の支払いで足りる、とされました。 - イ 商法745条4項は、傭船者が船積期間内に運送品の船積みをしなかったときは、契約の解除をしたものと見做す、としています。
しかし、実務上、船積期間を経過しても、船積みの遅滞を解除と見なさずに、船積みを待ち受けて停泊を続けることもでき、また、当事者が別途滞船期間を合意することも多く、解除の擬制は無理があります。
それで、要綱では、運送人は、解除したものとみなすことができる、とされ、一律の解除擬制は廃止される見込みです。
- ア 商法745条1項、2項は、発航前に全部航海傭船契約の傭船者は、航海の態様(往復航海・複合航海(船積港へ回航の上運送)か否か)に応じて、運送賃の半額又は3分の2(空運賃)を支払って契約を解除できるとしています。往復航海等の場合は、賠償額が運送賃の半額では足りないためと説明されています。
- ⑸ 航海傭船に関する規定は、非航海船による物品運送にも準用されるものとされました。
- ⑴ 運送契約書の交付義務
- 3 個品運送
- ⑴ 船積み及び陸揚げ
- ア 商法749条1項は、個品運送契約において、荷送人は、船長の指図に従い、遅滞なく運送品の船積みすることを要す、としています。
しかし、実務上、個品運送契約では、運送人が船積みをするのが通常で、国際物品運送法3条でも、船積み、積付けは運送人の義務とされています。
それで、要綱では、「運送人は、荷送人から運送品を受け取ったときは、その船積み及び積付けをしなければならない。」とされました。 - イ 同じ趣旨で、商法752条4項の、荷受人は、船長の指図で、運送品を陸揚げすることを要す、との規定についても、削除される見込みです。
- ア 商法749条1項は、個品運送契約において、荷送人は、船長の指図に従い、遅滞なく運送品の船積みすることを要す、としています。
- ⑵ 発航前の任意解除権
商法750条、748条、745条では、発航前に、荷送人全員が共同して個品運送契約を解除する場合には、前記2項・の全部航海傭船契約の解除の場合と同様の規律になります。
他方、一部の荷送人だけが解除する場合は、運送賃の全額を支払って個品運送契約を解除できるが、運送品の全部又は一部の船積みをした場合には、他の傭船者及び荷送人の同意を得なければ解除できない、とされています。船積後の解除では、運送品の陸揚げ等で航海の遅延等が生ずるからです。
要綱では、一部の荷送人の解除の場合に、まず、発航前は、運送賃の全額(停泊料は航海傭船特有で、個品運送契約には適用ありません。)を支払って契約の解除ができ、但し、運送人に生ずる損害額が運送賃の全額を下回る場合は、その損害を賠償すれば足りる、とされました。
また、運送品の全部又は一部の船積みがされたときは、上記規定による解除はできないが、発航前に、他の荷送人及び傭船者の全員の同意を得たときは、運送賃の全額(損害額の方が下回れば損害額)を支払って契約の解除ができる、とされました。
これは、現行法の規律を基本的に維持しつつ、解除の場合の給付額の規律を調整したものです。
- ⑴ 船積み及び陸揚げ
- 1 海上物品運送契約の当事者