海事Q&A Q&A
海事に関するよくある質問
- 商法(運送・海商)改正要綱⑩ 船長については
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- 1 船長の責任
商法705条は、船長は、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明しなれば、船舶所有者、傭船者、荷送人その他の利害関係人に対して損害賠償の責任を負う、としています。
船長は、船主から委任された船舶の航海を実施するため、受任者として善良な管理者の注意をもって航海を実施する義務があります。ただ、船長の職務執行については、それ以外に、直接契約関係に立たない傭船者や荷送人、その他の多くの者が利害関係を持つため、広くそうした者のためにも善管注意義務を尽くすべきことを要求し、厳格な責任を課したものとされています。その根拠として、航海の安全の確保、船長の権限の広汎性、船長の過失の立証の困難さ等が挙げられます。
しかし、かっての船舶所有者と共に共同企業者としての地位にあり、船内においても大きな船舶権力を行使していた時代の船長と異なり、現在は、船舶所有者の被用者の一人であり、運送契約においては履行補助者に過ぎないため、本条のような厳格な責任は時代にそぐいません。そのため、本条は削除される見込みです。
また、削除しても、傭船者や荷送人は、運送人に対し契約上の債務不履行責任を追求できます(商法577条)。 - 2 船長の職務
- ⑴ 運送契約に関する書類の備置き義務
商法709条1項は、船長は、属具目録及び運送契約に関する書類を備え置くことを要す、としています。運送契約に関する書類とは、傭船契約書、船荷証券謄本等です。
しかし、現在の実務では、内航で備え置くことはないようであり、必要があれば、雇用契約で船長の義務を定めれば済むとされ、本条は削除される見込みです。 - ⑵ 航海に関する収支計算義務
商法720条2項は、船長は、各航海の終わりに航海に関する計算をして、船舶所有者の承認を求め、また、船舶所有者の請求があればいつでも計算の報告をすることを要す、としています。
しかし、現在の実務では、船舶の利用に関する損益の計算は船舶所有者が行うことが通例であるため、同項は削除される見込みです。
- ⑴ 運送契約に関する書類の備置き義務
- 3 船長の権限
- ⑴ 海員の雇入れ及び雇止めをする権限
商法713条2項は、船籍港において、船長は、海員の雇入れ及び雇止めをする権限を有する、としています。
これは、海員の選考・任免は船長に任せるのが適切とされたためです。
しかし、実際には、船長から海員の雇入れ及び雇止め権限は取り上げられ、船舶所有者が労働条件を提示して(船員法32条)、その名義で海員と雇入契約(乗船契約、指定された船舶に乗り組むため必要)を締結し、海員は、乗船の際に船員手帳等を船長に提出して契約内容につき船長と確認し、船長は、船舶所有者の代理人として海員名簿に労働条件の記載をし(同法36条)、運輸局に届ける(同法37条)、という流れで雇入れ及び雇止めが行われています。一般には、海員の配乗権は船舶所有者にあるとされている訳です。
それで、要綱では、同項が削除される見込みです。そして、必要があれば、船舶所有者が船長に雇入れ等の代理権を与えれば足りると整理することとされました。
なお、船籍港外での船長の包括的な代理権(商法713条1項)は、船舶差押えの送達等で必要であり、維持されます。 - ⑵ 船舶の緊急売却
商法717条は、船籍港外において、船舶が修繕することができなくなったときは、船長は管海官庁の許可を得て、これを競売できる、としています。
これは、船舶所有者の利益からみて、利用できない船舶は、利用できる資本に還元することが合理的であるとして、認められたものです。
しかし、船舶を競売に付するか否かの判断は、特に緊急性を要する訳ではなく、船舶所有者の意思を確認すべきであるとされ、同条は削除される見込みです。
- ⑴ 海員の雇入れ及び雇止めをする権限
- 1 船長の責任