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海事Q&A 2015年英国保険法(Ⅱ)

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海事Q&A Q&A

海事に関するよくある質問

2015年英国保険法(Ⅱ)
  1.  ワランティについて
    1.  MIA

       MIA33条(Nature of Warranty)では、ワランティとは、特定の事が行われ若しくは行われないこと、又はある条件が充足されることの被保険者の約束、又は、特定の事実状態の存在を肯定若しくは否定する被保険者の約束、とされています(1項)。
       ワランティは、明示又は黙示のいずれかになります(2項)。また、ワランティは、リスクに対して重要か否かを問わずに正確(exactly) に充足されなければならず、充足されなければ保険者はワランティ違反の日から責任を免れ、その日より前に生じた保険者の責任は影響を受けません(3項)。
       更に、ワランティ違反の立証責任は保険者側にあるものの、ワランティ違反が損害の発生と因果関係があるか否かは問わない、と解されています

    2.  問題点

       ささいなワランティ違反でも、リスクとの関連を問わず、字義通りに充たされなければ違反になってしまうこと、損害発生前に被保険者がワランティ違反を修復できないこと、違反と損害との間に因果関係が要求されないこと、保険契約の際の被保険者の記入事項が全てワランティになってしまうこと(Basis Clause)、等の問題点が指摘されていました。

    3.  IA
      •  Basis Clause(契約の基礎条項)の廃止

         IAでは9条(Warranty and representation) で、保険契約締結時又は変更時にした被保険者の表示を、ワランティに転化することはできないとされました。被保険者の告知内容の正確性を、一律にワランティとすることはできない訳です。これは、後述の16条2項で強行規定とされています。

      •  違反の効果

         10条(Breach of warranty)では、ワランティ違反があれば、保険者は直ちにその後の保険責任を免れる、というルールは廃止されるものとしています(1項)。
         それに代わり、保険者は、被保険者がワランティ違反になり、その修復前に生じた損失については責任を負わない、とされました(2項)。つまり、被保険者が、損失発生前に違反状態を解消すれば、保険者は支払責任を負うことになり、修復を認める法制に変わりました。
         これらに伴い、前記MIA33条3項第2文、及び、34条(When breach of warranty excused)の規定は、削除されます(IA10条7項)。

  2.  詐欺的請求に関する救済措置について
    1.  MIA

       MIAには、詐欺的な保険金請求についての明確な定めはありません。
       また、詐欺的な保険金請求がされた際に、その請求が拒否されるだけではなく、MIA17条の最大善意の原則(後述)に関する規定の適用により、保険契約を契約時に遡って取り消すことができないかが問題とされましたが、詐欺的請求という契約成立後の最大善意義務違反に対して、同条の遡及的無効を適用することは無理がありました。

    2.  IA

       そこで、詐欺的請求に関する規定が新設されました。
       12条(Remedies for fraudulent claims)では、被保険者が詐欺的な保険金請求をした場合、保険者は支払義務を負わず、その請求について既払の保険金があれば返還を請求でき、更に、保険者は被保険者に通知して詐欺行為の時点で保険契約が終了したものとして扱う事ができる、とされました(1項)。
       また、保険者は前記通知で契約が終了した場合、詐欺行為以降の全ての支払を拒否でき、既に支払を受けた保険料の返還も不要です(2項)。
       ただ、上記により契約が終了しても、詐欺行為より前に生じた別の事故の支払責任は、影響を受けません(3項)。

  3.  最大善意

     MIA17条(Insurance is Uberrimae Fidei) では、海上保険契約は、最大善意 (the utmost good faith) に基づく契約であって、当事者の一方が最大善意を守らない場合には、相手方はその契約を取り消すことができる、とされています。
     保険契約でこれが要求されるのは、保険者の保険引受けの判断のための情報はほぼ被保険者が保有しているためです。この規定は、MIA18条の告知義務、20条の真実の表示義務の根拠にもなっています。
     しかし、保険者の側が最大善意を守らない場合に、保険填補を求める被保険者に保険契約の取消権を認めても意味がありません。他方、被保険者が守らない場合に、常に保険者に取消を認めるのも被保険者にとって酷と問題視されていました。
     そこで、IA14条(Good faith)は、最大善意を守らない場合に契約を取り消せるとのルールは廃止し(1項)、MIA17条後段の規定(取消権を定めている)は削除する(2項)、としています。
     ただ、MIA17条前段の最大善意の原則は、解釈ルールとしては残ります。

  4.  任意規定

     IA15条(Contracting out:consumer insurance contracts)では、消費者保険契約は、被保険者を不利にする特約は無効とされています。
     他方、16条(Contracting out:non-consumer insurance contracts)では、事業者対象の保険契約は、前記9条のBasis Clauseの禁止については、強行規定とされています(1項)。
     しかし、他の規定については、被保険者を不利にする特約は、17条の透明性の要件を満足しない限り無効、つまり、それを充たせば有効、としています(2項)。
     その17条(The transparency requirements) では、保険者が、保険契約締結時又は変更時に不利益条項を設ける際は、被保険者の注意が喚起されるよう十分なステップを踏むことが、要求されています(2項)。また、その不利益条項自体、明確で且つ曖昧さのないものであることが必要です(3項)。そして、上記2項と3項の要件を充たすかどうかの判断の際に、被保険者の性格や取引の状況を斟酌することとされています(4項)。
     ただ、被保険者(又は代理人)が、保険契約締結時又は変更時に、不利益条項について現実に知っていた場合は、被保険者は保険者が上記2項の要件を充足していないことを当てにはできない(その不充足を理由に同条項の無効を主張できない)、とされています(5項)。

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