海事Q&A Q&A
海事に関するよくある質問
- 2010年英国贈収賄防止法
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- 1 立法の経緯
2010年4月8日、英国で贈収賄防止法(Bribery Act 、 以下「UKBA」という。)が成立し、2011年7月1日より施行されています。その経緯は以下のとおりです。
1972年、米国で、ウォーターゲート事件の調査をきっかけに、多数の米国企業が外国公務員に多額の贈賄をしていたことが判明し、1977年、海外腐敗行為防止法(Foreign Corruption Practices Act、 以下「FCPA」という。)が制定されました。
その後、1997年2月、OECDで、国際商取引での外国公務員に対する贈賄の防止(Combating Bribery) に関する条約が発効し、日本を含む41か国が批准しています。それを受けて、日本では、1998年、不正競争防止法に、外国公務員に対する不正の利益の供与等の罪が新設されました(18条)。
更に、2003年、国連において、腐敗の防止(against Corruption)に関する国連条約が採択され、2015年12月14日に発効し、2016年2月時点現在の締約国は170カ国を超えます。日本は2003年に署名し、2006年に国会の承認を得ましたが、実施のための国内法が未成立のため、批准は未了です。
以上のような外国公務員贈賄規制の流れの中で、UKBAの成立、施行に至ったものです。 - 2 犯罪類型
- ⑴ 贈賄罪(1条 Offences of bribing another person)
犯罪の主体に制限はありません。利益供与の客体は、FCPAや日本法と異なり、公務員だけでなく民間人も含みます。対象行為は、現実の利益供与だけでなく、申込、約束も該当します。
また、構成要件は以下の2つがあります。いずれも、相手に利益の供与等の行為があり、かつ、①又は②の要件がそれぞれ付加されます。- ① その賄賂で相手の関連する権限や活動の不正な行使(perform improperly)を誘引することを意図するか、又は、相手の権限や活動の不正な行使に対して報いることを意図すること(2項)。
- ② その利益を相手が受領することが、相手の関連する権限又は活動の不正な行使であることを知っていたか、又は信じていたこと(3項)。
- ⑵ 収賄罪(2条 Offences relating to being bribed )
構成要件は4つあります。
- ① 自己の権限や活動を不正に行使することを意図して、利益を要求し、受領を合意し、又は現実に受領すること(2項)。
- ② 利益を要求し、受領を合意し、又は現実に受領し、それら自体が自己の権限は活動の不正な行使を構成すること(3項)。
- ③ 自己の権限や活動の不正な行使の対価として、利益を要求し、受領を合意し、又は受領すること(4項)。
- ④ 利益の要求、受領の合意、又は現実の受領を予期して、或いはそれらの結果、自らの権限や活動を、自ら又は他人により、不正に行使すること。
- ⑶ 外国公務員贈賄罪(6条 Bribery of foreign public officials )
主体に制限はなく、客体は外国公務員です。外国公務員のメインは、英国以外の立法、行政、司法の地位にある者ですが、公的企業のために公的機能を負う者も含みます(5項)。
また、主観的要件として、外国公務員に対して、その権限行使に影響を及ぼす意図があること(1項)、及び、事業参入やビジネス上の利益を獲得、又は維持する意図があること(2項)、が必要です。
他方、贈賄罪と異なり、「権限等の不正な行使」の要件はありません。 - ⑷ 営利組織による贈賄防止措置懈怠罪(7条 Failure of commercial organisations to prevent bribery)
構営利組織の関係者が、事業や利益の獲得又は維持のために贈賄をした場合、その関連する営利組織(relevant commercial organisation)は、有罪となります(1項)。しかし、同組織が、贈賄防止のための十分な手続き(adequate procedures) を講じていた場合は、抗弁となり、違反になりません(2項)。
上記の対象となる「関連する営利組織」は、①英国法人、②外国法人で英国で事業を行う事業体、③英国で組織され英国内外で事業を行う組合(partnership) 、④英国以外で組織され英国で事業を行う組合、をいいます(5項)。日本法人で英国で事業を行う事業体は、②に含まれます。
- ⑴ 贈賄罪(1条 Offences of bribing another person)
- 3 適用範囲(12条 Offences under this Act:territorial application )
- ⑴ 救助報酬(Ⅵ条)
同法1条、2条、6条の犯罪は、その実行行為の一部が英国で行われれば処罰されます(1項)。主体は問いません。
また、実行行為が英国で行われなかった場合でも、その行為が構成要件を充足し、且つ、行為者が英国と密接な関係(close connection)を有する場合は、同法が適用されます(2項)。「密接な関係」とは、4項所定の9つの場合(英国人、英国を常居所とする者、英国法人等)をいいます。日本企業の英国駐在員や日本企業の英国子会社は、含まれることになります。 - ⑵ 他方、同法7条の犯罪については、どこで実行行為が行われるかを問いません(5項)。そのため、当該事業体が前記の「関連する営利組織」に該当すれば、その関係者がした贈賄行為の場所がどこであれ、十分な防止措置がなされていない場合は、同条が適用されます。
- ⑴ 救助報酬(Ⅵ条)
- 4 Facilitation payment
FCPAでは、外国公務員に対し、裁量のない機械的な業務でなされる円滑化のための支払は、贈賄の処罰の対象から除外されていますが(米連邦法15編78dd-1(b) )、UKBAにはそのような例外規定はありません。
- 5 罰則(11条 Penalties )
罰則は、個人に対しては、10年以下の禁固又は/及び無制限の罰金(1項)、法人に対しては、無制限の罰金になります(2、3項)。
(なお、英国法典は、http://www.legislation.gov.uk/)
- 1 立法の経緯