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海事Q&A 商法(運送・海商)改正要綱② 船舶衝突法はどうなる

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海事Q&A Q&A

海事に関するよくある質問

商法(運送・海商)改正要綱② 船舶衝突法はどうなる
  1.  船舶所有者間の責任の分担

     商法797条は、船舶衝突の場合に、双方の過失の軽重を判定することができないときは、損害は各船主が平分して負担する、と定めています。
     そして、過失の軽重が判定しうるときは、その反対解釈として各過失割合に応じて損害を負担すると解するのが多数ですが、過失相殺に関する民法722条2項によるべきとする考え方もあり、それに沿う判例もありました。
     この点、船舶衝突統一条約(大正3年、日本は批准)4条1項は、双方過失による船舶衝突の場合は、必ず双方の船舶の過失の軽重に応じた損害の分担を定めるべきと規定しています(比較過失主義)。
     ところで、船舶衝突の場合に、訴訟での全ての船舶が締約国に属する場合には船舶衝突統一条約(日本は批准)が直接適用されますが、日本の裁判所で全ての利害関係人が日本に属する場合や、非締約国に属する船舶の衝突の場合は、民商法の適用になり、そこでも衝突条約の規定を踏まえた規律が求められていました。
     それで要綱では、「船舶と他の船舶との衝突に係る事故が生じた場合において、衝突したいずれの船舶についてもその船舶所有者又は船員に過失があったときは、裁判所は、これらの過失の軽重を考慮して、その衝突による損害賠償の責任及びその額を定める。この場合において、過失の軽重を定めることができないときは、損害賠償の責任及び額は、各船舶所有者が等しい割合でこれを負担する。」とされました。
     これは、このような場合に、衝突条約の規律に沿って、民法722条2項(被害者の過失の裁量的考慮)の特則として、裁判所は過失の軽重を必要的に考慮して各自の責任及びその額を定める旨の規律を設けたもの、とされています。

  2.  一定の財産の損害賠償責任

     二以上の船舶が過失により衝突した場合の各船舶所有者の損害賠償責任について、民法719条1項は不真正連帯債務を規定しています。他方、衝突条約4条2項は船舶、積荷又は船舶内に或る者の財産に生じた損害に限り連帯債務とはせず、各自の負担部分に応じた分割債務としています。
     中間試案では、条約に沿って、上記財産に損害が生じたときは、民法719条1項の規定にかかわらず、各船舶所有者は、その負担部分についてのみ損害を賠償する責任を負うとする改正意見が出、議論になりました。
     現行を維持する案は、被害者の積荷所有者からみて二以上の船舶の各負担部分は明らかでなく、被害者の請求に困難を強いるべきではない等としました。
     これに対し、改正案は、積荷について運送契約当事者間で航海過失免責等の規律が多いところ、積荷所有者が積載船舶の衝突の相手方にその負担部分を越える額を請求すると、その相手方は全額の賠償を余儀なくされ、その結果、負担部分を越える部分は積載船舶の所有者に求償しうることになり、上記の免責に関する規律の意義がなくなるとしました。
     検討の結果、要綱には記載はなく、現行のままの規律が維持される見込みです。

  3.  消滅時効

     商法798条1項は、船舶衝突によって生じた債権の時効は1年と定めています。この点につき、判例(大審院大正4年4月20日)は、この規定は財産権の侵害に関する債権について定めたもので、人身損害については適用はないとしています(この点につき学説の有力な反論があります。)。また、起算点について判例(最高裁平成17年11月21日)は、民法724条に基づき、被害者が損害及び加害者を知った時からとしています。
     これに対し、衝突条約7条1項は、時効を事故発生の日から2年と定めています。その趣旨は、多数の利害関係人との間で権利関係を早期に画一的に確定させるためです。
     要綱では、船舶の衝突を原因とする不法行為による損害賠償請求権のうち、財産権の侵害によるものについては、衝突条約に合わせて、事故発生から2年で時効としました。
     他方、人身損害については、判例どおり人命尊重の観点から、商法に特に規律を設けず、民法に委ねた処理をしています(加害者等を知ってから3年、民法改正後は5年)。ただ、日本近海での衝突では、日本だけが人身損害の被害者につき手厚くすると、法廷地あさり(フォーラム・ショッピング)の危険があると指摘されています。

  4.  規律の適用範囲
    1.  船舶の準衝突

       現行法では、船舶の準衝突(船舶がその航行若しくは船舶の取扱いに関する行為又は船舶に関する法令に違反する行為により、他の船舶に著しく接近し、当該他の船舶又はその船舶内にある者若しくは物に損害を加えた事故)についての規律がありません。
       この点、衝突条約では、準衝突の場合も条約の規律が適用されるとされているため、要綱ではこれに沿って、船舶衝突の規定が準衝突にも準用されることになりました。

    2.  非航海船との衝突及び準衝突

       現行法では、船舶と非航海船(商行為をする目的で専ら湖川、港湾その他の海以外の水域において航行の用に供する船舶(端舟その他ろかいのみをもって運転し、又は主としてろかいをもって運転する舟を除く))との衝突及び準衝突の場合に関する規律は有りません。
       それで、船舶衝突及び準衝突に関する規定が、船舶と非航海船との事故にも準用するものとされました。

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