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海事Q&A 商法(運送・海商)改正要綱④ 海上保険での改正は

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海事Q&A Q&A

海事に関するよくある質問

商法(運送・海商)改正要綱④ 海上保険での改正は
  1.  保険者が填補すべき損害

     商法817条は、保険者は、保険の目的物に損傷がなくても、被保険者が支払うべき共同海損の分担額を填補する責任を定めていますが、同じ趣旨が海難救助料にも当てはまるため、要綱では、保険者は、被保険者が支払うべき海難救助料についても填補すべきものとしました。
     なお、英国海上保険法(以下「MIA」)65条では、契約に基づかない救助料について填補の対象とする旨規定されています。

  2.  告知義務
    1.  告知すべき事項

       保険法4条では、保険契約者又は被保険者になる者は、損害保険契約の締結に際し、危険に関する重要な事項のうち保険者が求めたものについて、事実の告知をしなければならない、と定められています(質問応答義務)。
       その趣旨は、保険者は、リスクについての高い情報収集能力を有しており、何が必要な情報かは事業者である保険者の側で判断すべきということによります。
       但し、事業者間の契約となる企業保険の分野では情報力の偏在は生じにくく、保険者が情報不足のリスクを負担すると保険料が高額になる等の不都合があることから、同法36条1号で、海上保険契約については片面的強行規定(同法7条)の適用が除外され、同法4条の規定とは異なる定めをすることが可能とされています。
       そこで、要綱では、「保険契約者又は被保険者になる者は、海上保険契約の締結に際し、危険に関する重要な事項について、事実の告知をしなければならない。」とされました。
       これは、海上保険契約において、保険者側が告知を求めることを前提とはせず、保険契約者又は被保険者になる者に危険に関する重要な事項について自発的申告義務を課し、保険法4条の特則を設けようとしたものです。
       その趣旨は、海上保険は火災保険等よりも危険の個別性が強いこと、危険開始までの期間が短く質問応答義務による対応では時間的に困難な場合があること、世界的にも自発的申告義務による実務(MIA18条)が一般的であること、国際的な再保険等の関係で支障を生じさせない必要があること等によります。

    2.  告知義務違反の効果

       保険法28条1項は、保険契約者又は被保険者が故意又は重過失により告知義務(質問応答義務)に違反した場合、保険者は損害保険契約を解除できると定めています。
       要綱でもそれに沿って、保険契約者又は被保険者が故意又は重過失により告知義務(自発的申告義務)に違反した場合に、保険者は損害保険契約を解除できるとしています。
       また、保険法28条2項1号(保険者の悪意又有過失の場合の特則)、同条4項(解除権の行使期間)、同法31条2項1号(義務違反で解除した場合の保険者の免責)の規定が、海上保険契約に準用されます。

  3.  海上保険証券

     保険法6条1項は、保険者は損害保険契約を締結したときは遅滞なく、同項掲記の事項を記載した保険証券を交付することを求めていますが、商法823条は海上保険契約について、同条所定の事項の追加記載を求めています。
     要綱では、実務上の海上保険証券を踏まえて、その記載事項を見直しています。
     まず、船舶保険については、船長の氏名を削除し、船舶の船質、総トン数、建造年、航行区域及び船舶所有者の名称を追加しています。また、貨物保険では、船舶の国籍及び種類を削除し、貨物の発送地及び到達地を追加しています。

  4.  保険者の免責
    1.  商法829条は、以下の法定免責事由を定めています。
      1.  保険の目的物の性質、瑕疵、その自然の消耗によって生じた損害
      2.  保険契約者又は被保険者の悪意又は重過失によって生じた損害
      3.  船舶等を保険に付した場合に、発航の当時安全航海のための準備をせず
         又は
         必要な書類を備えないことによって生じた損害
      4.  貨物保険又は希望利益保険の場合に、傭船者、荷送人、荷受人の悪意又は重過失によって生じた損害
      5.  水先案内料、入港料、灯台料、検疫料その他船舶又は積荷につき航海のために支出した通常の費用
    2.  要綱では、①は、実質上維持されます。

       ②は、責任保険契約については、保険法17条2項や実務上の取扱いに合わせて、故意によって生じた損害に限るという条項を付加します。不法行為による損害賠償債務の負担に備えて締結される責任保険において、性質上被保険者の重過失を免責事由とするのは相当でないからです。
       ③は、実質上維持され、「船舶保険契約にあっては、堪航能力担保義務に反したことによって生じた損害」とされる見込みです。
       ④は、英国法にも存在せず、⑤は、水先案内料等の費用は事故による損害ではないこと等から、いずれも削除される見込みです。
       そして、実務上の取扱いを踏まえ、新たな免責事由として、「戦争その他の変乱によって生じた損害」、及び「貨物保険契約にあっては、貨物の荷造りの不完全によって生じた損害」を追加しています。

    3.  他に、貨物保険契約の免責事由として、「運送の遅延によって生じた損害」を追加すべきかどうかも議論になりました。MIA55条2項bでは免責事由(遅延による市場の喪失は海上保険では填補不可)とされています。
       この点は、海上保険では填補されるべき損害は直接損害に限られるという考え方が有力で、商法819条でも貨物保険の保険価額は所有者利益が中心です。
       それで、運送の遅延による損害(代船の手配費用等)は、貨物に関する直接損害ではなく填補されるべき損害には含まれないとして整理され、免責事由の問題ではない、ということで要綱では取り上げられていません。
       ただ、和文の貨物海上保険約款では、「運送の遅延」が免責事項とされています。

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