FJK法律事務所

海事Q&A 商法(運送・海商)改正要綱⑦ 船舶所有と賃貸借については

FJK法律事務所 トップ » 海事Q&A » 商法(運送・海商)改正要綱⑦ 船舶所有と賃貸借については

海事Q&A Q&A

海事に関するよくある質問

商法(運送・海商)改正要綱⑦ 船舶所有と賃貸借については
  1.  船舶の所有
    1.  発航の準備を終えた船舶に対する差押えの許容

       商法689条は、発航の準備を終えた船舶に対しては、原則として、差押え及び仮差押えの執行をすることができない(仮差押えの登記をする方法に依るものを除く。)、と定められています。
       それは、帆船の不定期船による運送が中止であった時代に、発航の準備を終えた船舶に差押えがされると、他の便船の確保が困難であったことを踏まえたものとされています。また、債権者は、発航準備終了時までに差押え等ができたのにこれをしなかったのだから、その後は荷主、旅客等の利益をより保護すべきともいえます。
       しかし、現在は定期船による運送が普及し、外国の法制でも差押えが許容されています(英米法と異なり、大陸法系では禁止されていましたが、フランスでもドイツでも40年以上前に廃止されています。)。また、外国船に対する差押えの実際上の障害にもなっていました。他方、現に航海中の船舶の差押えにより、船舶国籍証書等を取り上げることは現実的ではなく、危険を伴います。
       それで、要綱では、「差押え及び仮差押えの執行(仮差押えの登記をする方法によるものを除く。)は、航海中の船舶(停泊中のものを除く。)に対してはすることができない。」、とされました。

    2.  船舶の共有
      •  損益の分配時期

         商法697条は、共有船舶に関する損益の分配は、毎航海の終わりに、船舶共有者の持分に応じて行う、と定めています。
         これは、1回の航海が大きな危険を伴うという歴史的事情を背景にしており、ひとつひとつの航海が冒険であった頃の名残です。
         しかし、現在の実務では、航海の都度損益を分配するという実態はないため、削除される予定です。

      •  船舶管理人である船舶共有者の持分の譲渡

         商法698条は、船舶共有者間に組合関係があっても、各共有者は、他の共有者の承諾を得ないで持分の譲渡ができる、但し、船舶管理人はこの限りではない、としています。
         この持分譲渡の自由は、海上企業による船舶共有の資本団体的性格によります。但し、その船舶共有者が船舶管理人(船舶共有の場合は選任が必須)に選ばれている場合は、自由に持分譲渡を認めればその信任に背くため、持分譲渡には他の共有者の同意が必要、と解釈され、登記実務もそれに沿っています。
         しかし、この条項の文言では、船舶管理人である船舶共有者が持分を譲渡する場合の要件が、必ずしも明確ではありません。
         それで、要綱では、「船舶管理人である船舶共有者は、他の船舶共有者の全員の承諾を得なければ、その持分の全部又は一部を他人に譲渡することができない。」と、現在の一般的な解釈及び登記実務の取扱いが明文化されました。

      •  船舶管理人の登記

         商法699条3項は、船舶管理人の選任及びその代理権の消滅は登記をすることを要す、とされていますが、その登記の効力については不明確です。
         船舶管理人は、船舶の利用に関する事項に関し、船舶共有者について包括的代理権を有し(商法700条)、商法上の支配人の立場に近似しており、取引の相手方にとって重要です。
         それで、要綱では、船舶管理人の登記の効力について、一般的にその効力を定めた商法9条を準用することとし、登記事項は登記の後でなければ善意の第三者に対抗できない等とすることとされました。

      •  航海に関する計算

         商法701条2項は、船舶管理人は、毎航海の終わりに遅滞なく航海に関する計算をして各船舶共有者の承諾を求めることを要す、とされています。
         しかし、上記ア同様、実務上、航海を単位として損益の計算をする実態がありません。
         それで、要綱では、「船舶管理人は、一定の期間ごとに、船舶の利用に関する計算を行い、各船舶共有者の承認を求めなければならない。」とされました。

  2.  船舶賃貸借

     船舶賃貸借(裸傭船)については、商法に特則がない限り、一般法の民法の規定が適用されますが、同法606条1項は、賃貸人の修繕義務を定めています。
     これは、賃貸人は、賃借人の物の使用、収益を単に認容するのではなく、賃借人に対し、積極的に使用、収益させる義務を負っているためです。
     しかし、船舶賃貸借の契約実務上、船舶賃借人が修繕義務を負うとするのが一般的であり、また、船舶賃借人は、その船舶で海上企業を営むという特徴があります。
     それで、要綱では、「船舶の賃借人であって商行為をする目的でその船舶を航海の用に供するものは、その船舶を受け取った後にこれに生じた損傷があるときは、その利用に必要な修繕をする義務を負う。ただし、その損傷が賃貸人の責めに帰すべき事由によるものであるときは、この限りでない。」、とされました。

TOP