海事Q&A 商法(運送・海商)改正要綱⑪ 共同海損は

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海事Q&A Q&A

海事に関するよくある質問

商法(運送・海商)改正要綱⑪ 共同海損は
  1.  共同海損の成立等
    1.  共同海損の成立及び共同海損となるべき損害又は費用
      •  商法は、任意規定として共同海損を定めていますが、実務では、万国海法会(CMI)の採択したヨーク・アントワープ規則(以下「YAR」)に基づく処理が一般です。それで、中でも実務上多く使用されている1994年のYARと整合性を図るべく、改定提案されました。
      •  共同海損の成立

         商法788条1項は、船長が船舶及び積荷に対する共同の危険を免れさせるため船舶又は積荷についてした処分によって生じた損害及び費用を、共同海損とする、としています。
         要綱では、YAR第A条に沿って、①船長以外の者が商法788条1項の処分(以下「共同危険回避処分」)ができることとし、②共同の危険は、船舶及び積荷その他の船舶上の財産(定期傭船中の空船の燃料等)(以下「積荷等」)に対するものとすることに改め、③同法789条の要件とされていた共同危険回避処分と船舶又は積荷の保存の結果との間の因果関係(因果主義)を不要とし、同処分の後に船舶又は積荷等が残存していれば足りる(残存主義)、こととされました。
         具体的には、「船舶及び積荷その他の船舶内にある物に対する共同の危険を避けるために船舶又は積荷等について処分がされたときは、当該処分によって生じた損害及び費用は、共同海損とする。」、とされました。
         ところで、商法788条2項は、危険が過失によって生じた場合に、利害関係人の過失者に対する求償は妨げない、としています。いかなる原因であっても共同の危険である以上、共同危険回避処分の必要があるため、成立要件として危険の発生原因を問わないものとした上で、過失者への求償を認めたものです。YAR第D条も同趣旨の規定であることから、同項の規律は維持されます。

      •  共同海損となるべき損害又は費用

         商法794条1項は、共同海損となるべき損害額の算定につき、到達ないし陸揚の地及び時における船舶又は積荷の価格とし、実質上、YAR第G条(冒険終了の時及び地における価額)と同趣旨であるため、これは維持されます。
         また、積荷以外の船舶上の財産も共同海損の成立を認めることにしたため、それについても同じ基準で損害額を算定することとされました。
         運送賃については、YAR15条に沿い、陸揚げの地及び時において請求することができる運送賃の額が、共同海損とされました。
         そして、積荷及び運送賃については、積荷の滅失又は損傷のために支払うことを要しなくなった一切の費用(積荷の陸揚費用等)を控除するもの、とされています。
         なお、これに関連して、商法764条3号は、船長が共同危険回避処分で積荷を処分しても、運送賃の全額を請求できるとしています。これは、処分に付された積荷は共同海損の処理で賠償されるため、運送は一応完成されたものとみなすことができるためです。しかし、今回、運送賃の損失を共同海損となる費用にして運送人の権利が保全される規律変更に伴い、処分された積荷は運送契約不履行として、運送賃請求権が消滅することとし、同号を削除することが提案されています。

    2.  特別な場合の取扱い
      •  積荷の価額評定書類に実価より低い価額を記載した場合等

         商法795条1項及び3項では、船荷証券その他の積荷の価額を評価するに足るべき書類に積荷の実価より低い価格を記載したとき、又は、積荷の価格に影響を及ぼすべき事項につきこれを低く評価するような虚偽の記載をしたときは、その積荷に加えた損害の額は、その記載された金額によって定める、とされています。
         これは、不実記載に対する一種の制裁であり、YAR19条2項と同趣旨であるため、実質上維持される予定です。

      •  共同海損とならない損害及び費用

         商法793条1項、2項、794条2項は、①積荷の価額評定書類がなく船積みされた積荷、②属具目録に記載がない属具、③甲板積みの積荷(沿岸の小航海におけるものを除く)、④高価品である積荷(荷送人等が運送委託に当たりその種類、価額を明告していないもの)に加えた損害は、共同海損とならない、としています。 要綱では、②、④は維持され、③は沿岸の小航海の例外が削除されました。
         ①は、YAR19条1項に沿って、a船舶所有者に無断で船積みされた積荷、b船積みに際し故意に虚偽の申告がされた積荷、とされました。
         また、YAR6条bに沿って、船舶所有者が救助者に支払うべき海洋環境の保全に係る特別補償料は、共同海損とならないとされました。

  2.  共同海損の分担
    1.  共同海損の分担額
      •  基本的な分担のあり方

         商法789条は、共同海損は、保存された船舶又は積荷の価格と、運送賃の半額と共同海損たる損害額との割合に応じて、各利害関係人が分担するとし、同法790条は、共同海損の分担額の算定につき、到達ないし陸揚の地及び時の価格による、としています。
         要綱では、商法790条の規律は、YAR第G条及び17条と同趣旨であるため、実質上維持される予定です。
         また、積荷以外の船舶上の財産について共同海損を認めることに伴い、同様の基準で分担額が算定されます。
         運送賃については、YAR17条2項に沿い、現行の運送賃の半額で分担するとの規律を改め、運送人が危険にさらされた総運送賃から航海の費用(共同海損となる費用を除く)を控除した純運送賃を基準とすることとされています。

      •  共同危険回避処分の後に修繕がされた場合等

         要綱では、YAR17条2項に沿い、船舶、積荷、積荷以外の船舶上の財産につき、共同危険回避処分の後、冒険終了の前に各財産について必要費又は有益費を支出した場合には、その費用(共同海損となる費用を除く)を控除することとされました。
         それは、その費用は共同危険回避処分とは無関係であり、共同海損の分担額の算定の基礎とすべきではないためです。

      •  共同海損となる損害が共同海損を分担する旨の規律

         商法789条で、共同海損たる損害自体も共同海損を分担するのは、もし処分された財産の所有者が分担しなければ、保存された財産の所有者から損害全額の填補を受けることになり、不公平であるためです。
         ただ、同条は、各種の財産の利害関係人と並列的に損害を受けた者を規定していますが、実務では、当該利害関係人の財産の価額にその者が受けた損害額を加算するとの計算方法が取られています。
         それで、要綱では同条の規律を維持しつつ、その実務に沿って、各種利害関係人が共同危険回避処分によりその財産に損害を受けたときは、分担額は、その損害の額(その財産に前記イ記載の必要費等を支出した場合は、その費用を超える部分の額に限る。)を加算した額とする、とされました。

    2.  積荷の価額評定書類に実価を超える価額を記載した場合等

       商法795条2項及び3項では、価額評定書類に積荷の実価より高い価額を記載したとき、又は積荷の価格に影響を及ぼすべき事項につきこれを高く評価するような虚偽の記載をしたときは、その積荷の利害関係人はその記載価額に応じて共同海損を分担する、とされています。この不実記載に対する制裁規定も、前記1・アと同様、維持されます。

  3.  その他
    1.  商法796条について

       商法796条は、利害関係人が共同海損を分担した後、船舶、属具又は積荷がその所有者に回復したときは、償金中より救助料(回復に要した場合)及び一部滅失又は毀損によって生じた損害の額を控除したものの返還を要す、としています。
       これは、分担金を受領した者が、失ったはずの船舶や積荷を回復した場合、回復財産について認定された損害額(受領した分担金だけでなく、自身の分担額を含む)だけ利得することになるため、その認定損害額に相当する金額を返還する義務を課したものです。
       しかし、同条の「償金」との文言を、共同海損の清算を再度やり直した場合と同様の結論を導くために、当該所有者の共同海損の損害全額として解釈をせざるをえない等、法文が明確ではなく、民法の不当利得でも解決できる上、YARにもそのような規定はないため、削除される見込みです。

    2.  商法799条について

       商法799条は、船舶が不可抗力で発航港又は航海の途中で碇泊をするために要する費用に共同海損に関する規定を準用する、としています。
       これは、不可抗力(官憲による出港停止処分、検疫等)による停泊の場合(準共同海損)について、全ての利害関係人のために停泊を余儀なくされたのに、船舶所有者だけが費用を負担するのは酷だとして、共同海損の規定を準用し、各利害関係人の公平な分担を図ろうとしたものです。
       しかし、一般法理では、不可抗力によって支出した費用はその者自身の負担となるのが原則であり、元々立法論として反対説がありました。また、船舶所有者はこのような事態を想定して運賃を定め、保険でリスク分散等をすれば済み、YARにもこれに相当する規定はないことから、削除される見込みです。

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