海事Q&A 商法(運送・海商)改正要綱⑭ 物品運送に関する総則は(Ⅱ)

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海事に関するよくある質問

商法(運送・海商)改正要綱⑭ 物品運送に関する総則は(Ⅱ)
  1.  運送賃及び留置権
    1.  運送賃の請求時期

       運送賃の法的性質は請負契約であるため、運送賃は目的物の引渡と同時に支払わなければならないとされています(民法633条)。
       しかし、現行商法には規定がないため、要綱では、「運送人は、到達地における運送品の引渡と同時に、運送賃を請求することができるものとする。」、との規定が設けられることになりました。

    2.  運送人の留置権

       商法では、運送人の留置権として、運送取扱人の留置権の規定(運送取扱人は運送品に関し受取るべき報酬、運送賃其他委託者のために為したる立替又は前貸に付てのみ其運送品を留置することを得。)が準用されています(589条、562条)。
       この留置権は、商人間の留置権(商法521条)と異なり、目的物と債権との牽連関係を要する一方、債務者所有の物であることを要しません。
       この被担保債権の範囲につき、要綱では、海上運送人の留置権の規定(商法753条1項)を参考に、附随の費用(保管料等)を追加、前貸金を削除することとし、「運送人は、運送賃、付随の費用及び立替金についてのみ、その弁済を受けるまで、その運送品を留置することができる。」、とされました。

  2.  運送人の損害賠償責任
    1.  運送人の責任原則等
      •  運送人の責任原則

         商法577条は、運送人は、自己又はその使用人等が運送品の取扱、引渡、保管及び運送に関し注意を怠らなかったことを立証しなければ、運送品の滅失、毀損又は延着(以下「滅失等」といいます。)について損害賠償の責任を免れない、としています(過失推定責任)。
         これは、運送行為が通常、荷送人の目が届かないところでなされることに鑑み、民法415条の債務不履行の原則を注意的に規定したものと解されています。
         商法577条の規律では、荷送人は、運送中に運送品の滅失等により損害が生じたことを立証すれば、運送人に損害賠償請求ができることになります。
         また、ロッテルダム・ルールズ(全部又は一部が海上運送による国際物品運送契約に関する国際連合条約)17条1項では、荷送人は、運送中に運送品の滅失等、又はそれらの原因となった若しくは寄与した事象が生じたことを立証すれば、損害賠償請求ができる、とされています。
         これらを踏まえて、要綱では、運送品の滅失等の紛争が生じやすい物品運送契約について、立証責任の所在を明確にした規定にすることとし、以下のとおりとされました。
         「 運送人は、運送品の受取から引渡しまでの間に当該運送品が滅失し若しくは損傷し、若しくはその滅失若しくは損傷の原因が生じ、又は運送品が延着したときは、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。ただし、運送人が当該運送品の受取、運送、保管及び引渡しについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。」
         これによれば、運送中に滅失等の原因が生じ、損害発生は引渡後の場合も適用されることになります。
         なお、国際航空運送に関するモントリオール条約18条は、貨物損害につき、一定の免責事由に該当しない限り運送人は無過失責任を負う、としていますが、審議ではこのような規律にすべきとの意見はありませんでした。

      •  運送人の責任限度額
        1.  現行商法には、運送人の責任限度額(いわゆるパッケージ・リミテーション)に関する規定はありません。
           日本海運集会所の内航運送基本契約書にもありませんが、国内航空運送の約款では1口につき3万円という限度額を定めるものが多く、宅配便についても、貨物一口につき30万円という限度額を定めるのが一般的とされています。
           他方、国際海上運送については、国際海上物品運送法13条に、国際航空運送についてはモントリオール条約22条で、それぞれ責任限度額の定めがされ、その限度額より荷送人に不利な限度額を定めることはできません(同法15条1項、同条約26条)。
        2.  審議では、商法にも限度額の規律を設けてはどうかとの意見がありました。
           この点、特に陸上運送では、荷主が貨物保険を付することは一般的ではなく、限度額が新設されると中小の荷主が新たに貨物保険を付する負担が生じ、経済全体からみて効率が悪いこと、商法は任意規定が基本で、責任限度額の特約を運送人がすれば足りること、適切な金額の設定も困難である等の反対意見があり、要綱では挙げられてはいません。
      •  実行運送人の責任
        1.  現行商法では、荷送人と運送契約を締結した利用運送人が、実際の運送を下請運送人(実行運送人)に委託した場合に、運送中に運送品の滅失等が生じたときは、荷送人は、実行運送人に対しては、契約関係がないため、不法行為責任を問うことになります。
           他方、ドイツ商法509条1項では、実行海上物品運送人は、自らが運送中に生じた運送品の滅失又は損傷について、海上物品運送人であるかのように責任を負う、とされ、同条3項では、実行運送人は利用運送人の荷送人に対する個品運送契約上の抗弁を主張できる、とされています。
        2.  審議では、このような規律の新設も検討されました。
           この点については、日本では実行運送人に対して不法行為責任の追及が十分可能であること、荷送人と利用運送人との間の運送契約で、契約上の抗弁を実行運送人も援用できる旨定めることも可能である等の意見が出て、要綱では、このような規定は設けられていません。
    2.  高価品に関する特則の適用除外
      •  商法578条は、高価品について荷送人が運送を委託するに当たり、その種類及び価額を明告しないときは、運送人は損害賠償責任を負わない、としています。
         これは損害が一旦発生したときに、その運送品の価額で賠償することになると、運送人は予想外の巨額の賠償責任を負う結果になりうることを考慮したものです。
         しかし、高価品の明告がなくても、運送契約締結当時に、運送品が高価品であったことを知っていた運送人が免責される必要はない、と一般に解されています。
         そこで、要綱では、以下の規定が設けられることになりました。
        「 明告されない高価品について運送人が免責される旨の規律(商法第578条)は、次に掲げる場合には適用がないものとする。
         ア 運送契約の締結の当時、運送人が高価品であることを運送人が知っていたとき。」
      •  また、運送人の故意又は重大な過失によって運送品の滅失等が生じたときは、公平の観点から、運送人を免責すべきではなく、高価品に関する特則は適用されない、と一般に解されています。この点について、中間試案では、甲案として、この文言で、新たに適用除外規定を設けることが提案されました。
         これに対し、乙案として、モントリオール条約22条5項や国際海上物品運送法13条の2で使用される概念である、運送人の故意又は損害の発生のおそれがあることを認識しながらした無謀な行為によって運送品の滅失等が生じたとき、に商法578条の適用除外にすべきであるとして、適用除外の範囲をより限定する意見が出されました。
         審議では、乙案によると運送人は常に免責されることになりかねないとして、甲案を支持する意見、他方、運送人は低廉な運送賃で高価品を運送しており、商法578条の趣旨は尊重されるべきとして、乙案を支持する意見が出ました。
         その後の審議の結果、現在の実務上、運送人に重大な過失がある場合には、荷送人の無申告との過失相殺によって柔軟な解決が図られており、そのような実質について両者間に特に反対もないこと等から、甲案が採用されることになりました。
         要綱では、以下のとおりになります。
         「明告されない高価品について運送人が免責される旨の規律(商法第578条)は、次に掲げる場合には適用がないものとする。
         イ 運送人の故意又は重大な過失によって運送品の滅失、損傷又は延着(以下「運送人の滅失等」という。)が生じたとき。」
    3.  運送品の延着

       商法580条は、運送品の滅失又は損傷の場合の賠償額について、引渡しがされるべき地及び時の運送品の価額によって定める、としています
       これに対し、運送品の延着の場合の損害賠償額については規定がなく、民法の原則に戻り、同法416条によるとする見解が有力です。
       この点、中間試案では議論になり、甲案は、特に商法に規定を設けず、当事者間の契約に委ねようとするものです。実務上は、延着の場合の賠償額につき、運送賃の総額を上限とする約款が多いようです。
       これに対し、乙案として、それでは、延着の場合に全部滅失等より多額の賠償責任を運送人が負う可能性があるのはバランスを失するとして、延着の場合も、滅失等と同様、運送品の価額が上限とする案が出されました。乙案では、延着により逸失利益等の損害が多額の場合も、運送品の価額が賠償の上限になります。
       その後の審議の結果、要綱では、特に規定が設けられてはおらず、甲案によったことになります。

    4.  相次運送
      •  現行商法では、陸上運送に関する相次運送につき、以下の規定があります。

        1.  数人の運送人が相次いで運送する場合には、各運送人は、運送品の滅失等につき、連帯して損害賠償責任を負う(商法579条)。
        2.  数人の運送人が相次いで運送する場合には、後の運送人は、前の運送人に代わってその権利を行使する義務を負い、この場合に、後の運送人が前の運送人に弁 済したときは、当該運送人の権利を取得する(商法589条、563条)。

         この点につき、海上運送では、①の規定はありますが、②の規定はありません(商法766条、際海運法20条2項)。

        1. の相次運送とは、大審院によれば、ある運送人が引き受けた運送について荷送人のために他の運送人が相次いで運送の引受けをする場合(連帯運送)をいう、とされています。連帯運送の場合には、損害がどの運送区域において発生したかを証明することが困難であり、荷送人の損害賠償請求を容易にするため連帯責任としたものとされています。
        2. の相次運送の規定は、①の連帯運送だけでなく、ある運送人が全区間の運送を引き受けた上で、下請けに委託する場合(下請運送)、数人の運送人が各自独立して一部の区間の運送を引き受ける場合(部分運送)、数人の運送人が全区間を引き受け、内部的に各運送人が分担区間を定める場合(同一運送)を含むとされています。

         この趣旨は、運送品を次の区間の運送人に引き渡した運送人は、種々の権利行使ができなくなるため、後の運送人に前の運送人に代わって権利行使の義務を課したものとされています。

      •  運送人の責任限度額

         海上運送及び航空運送では、上記ア①②の規定の適用がある事案はあまりないようですが、①の場合に各運送人の責任を連帯責任とすることは合理性があり、またこれらの規定は任意規定であり、契約で異なる定めをすることも可能であるため、陸上運送の相次運送人に関する上記①②の規定を、海上運送及び航空運送の相次運送にも準用することとされました。

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