海事Q&A 商法(運送・海商)改正要綱⑮ 物品運送に関する総則は(Ⅲ)

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海事に関するよくある質問

商法(運送・海商)改正要綱⑮ 物品運送に関する総則は(Ⅲ)
  1.  荷受人の権利

     商法583条1項は、貨物引換証が発行されていない場合、運送品が到達地に達した後は、荷受人は運送契約によって生じた荷送人の権利を取得する、としています。この場合、双方の権利は併存しますが、荷送人の権利が依然優先します。
     他方、運送品の到達後、荷送人の指図がない状態で、荷受人がその引渡しを請求したときは、荷受人の権利が優先し、荷送人は権利を行使することができない、とされています(同法582条2項類推)。
     この現行法によれば、運送品の全部が滅失したときは、到達がなく、荷受人は商法583条1行による運送契約上の権利を取得しないため、運送人に対し債務不履行に基づく損害賠償請求ができません。それで、その場合は、荷送人からその権利の譲渡を受けた上で、運送人に対し権利を行使する他ないことになります。
     中間試案では、この点の是非が議論になり、甲案は現行法を維持しようとするものです。
     これに対し、乙案は、商法583条1項について、運送品の全部が滅失した場合にも、荷受人は運送契約によって生じた荷送人の権利と同一の権利を取得することとした上、その場合、荷受人が損害賠償の請求をしたときは、荷受人の権利が優先し、荷送人はその権利が行使できない、とするものです。
     乙案は、国際売買の契約条件で多いCIFやFOB等では、船積み時に危険が買主に移転するところ、その場合、荷送人(売主)は、運送中の運送品の滅失について運送人の責任を追及する動機付けがなく、荷受人(買主)が荷送人から運送契約上の損害賠償請求権の譲渡を受けることも実際上困難を伴うため、荷受人の権利行使を容易にしようとするものです。
     乙案に対しては、国内の陸上運送では運送品の到着まで荷送人が危険を負担することが多いこと、売買契約上の所有権を取得していない等正当な利益を有しない荷受人が、運送契約上の権利を濫用するおそれがある等の反対意見がありました。
     それで、審議では、国際海上運送やこれを含む複合運送についてだけ乙案を適用する案も出されましたが、運送手段により規律が異なるのは複雑過ぎるため、採用されませんでした。
     その後の審議の結果、乙案が採用されることになりました。要綱では以下のとおりです。

    「 荷受人の権利に関する規律(商法第582条第2項、第583条第1項)を次のように改めるものとする。

    1.  荷受人は、運送品が到達地の到着し、又は運送品の全部が滅失したときは、運送契約によって生じた荷送人の権利と同一の権利を取得する。
    2.  ⑴の場合において、荷受人が運送品の引渡し又はその損害賠償の請求をしたときは、荷送人は、その権利を行使することができない。 」

     なお、船荷証券が発行されている場合は、運送契約に基づく権利はその所持人のみが有するため、上記のような複雑な問題は生じません(貨物引換証が発行されている場合も同様ですが、貨物引換証は要綱では削除される見込みです。)。

  2.  運送品の供託及び競売
    1.  運現行商法では、陸上運送について、①荷受人が不確知の場合、②運送品の引渡しについて争いがある場合に、運送品の供託及び競売ができるとされています(商法585条乃至587条)。
       これに対し、海上運送では、①の場合、及び③荷受人が運送品の受取を拒んだ場合には、運送品の供託義務があり(商法754条2項)、他方、④運送品の受取を怠った場合には、供託できる(同条1項)とされ、陸上運送とは規律が異なっています。

    2.  要綱では、これらの規律を整理統一することとし、②を③に含まれるものとして、①③④の場合に供託権を認めました。④については、受け取ることができないとき、と文言を改めました。また、供託義務の規定は運送人に供託の費用負担を常に強いることになるため、供託権の規定に改めました。
       なお、これに伴い、海上運送に特有の供託の規定である商法754条は削除される見込みです。
  3.  運送人の損害賠償責任の消滅
    1.  運送品の受取による責任の消滅
      •  商法588条1項本文について

         商法588条1項本文は、運送人の責任は、荷受人が留保をせずに運送品を受け取り、且つ運送賃その他の費用を支払ったときは消滅する、としています
         これは、運送人の業務は大量反復性があり、運送品の引渡しも短期間で、証拠も十分確保できないため、運送人を保護しようとしたものです。
         しかし、運送賃は後払いが多く、費用の支払いを運送人の責任消滅の要件とすることに合理性ががないため、この要件は削除されます。
         それで、要綱では、同条1項は以下のとおりとされました。
         「ア 運送品の損傷又は一部滅失についての運送人の責任は、荷受人が異議をとどめないで運送品を受け取ったときは、消滅する。ただし、運送品に直ちに発見することができない損傷又は一部滅失があった場合において、荷受人が引渡しの日から2週間以内に運送人に対してその旨の通知を発したときは、この限りでない。」
         受取時に異議が求められるのは、損傷等が受取時に明らかな場合に限られます。
         ところで、運送人に対する損害賠償請求権保全のために、荷主に上記の措置(異議、通知)を求めること自体、異論もありうるところですが、あくまで運送事業は低廉な運送賃で大量の貨物を運送するものであって、その点からはバランスの取れた規律といえるところです。
         なお、同条2項(運送人に悪意がある場合は、運送人の責任が消滅しないこと)については、維持されます。

      •  下請運送人の責任に係る商法588条1項但書の適用

         下請運送の場合、元請運送人は、商法588条1項但書の通知期間の満了直前に荷受人から通知を受けると、下請運送人に対する通知期間内での通知をしてその責任を問うことが困難になります。
         そこで、元請運送人が下請運送人に対する通知をするための期間を確保し、元請運送人による求償権の行使ができるようにするため、要綱では、同条1項に次の規定が加えられました。
         「イ 運送人が更に下請運送人に対して運送を委託した場合における運送品に関する下請運送人の責任は、荷受人がア(上記)のただし書きの通知期間内に運送人に対して通知を発したときは、下請運送人の責任に係る通知期間が満了した後にあっても、運送人が当該通知を受けた日から2週間を経過する日までは、消滅しない。」

    2.  裁判上の請求がない場合の責任の消滅

       商法では、運送品の滅失等についての運送人の責任は、荷受人が運送品を受け取った日(全部滅失の場合は引渡しがされるべき日)から1年の消滅時効に服する(589条、566条1項、2項)が、運送人に悪意がある場合の時効期間は、5年とされています(566条3項、522条)。
       これは、前記同様、運送関係を早期に解消して運送人を保護しようとするものですが、悪意の場合は保護に値しないとして、短期の時効とされなかったものです。
       これに対し、国際海上物品運送法14条は、①運送品の受取の日(全部滅失の場合は引き渡されるべき日)から1年以内に裁判上の請求をしないと運送人の責任は消滅し、②この期間は、損害発生後に限り合意により延長でき、③下請運送人に対する求償ができるように、求償権の除斥期間を3か月延長しています。
       審議では、運送品を大量に反復して取り扱う運送人のリスクの予見可能性を高めるべきこと、引渡し後1年を経過してから運送人の善意、悪意が争われるのは相当とはいえないこと、荷主の賠償請求に要する準備期間は運送人の主観的事情とは関係がないこと等から、商法の規律を国際海上物品運送法の上記①乃至③に改めることとされました。具体的には、以下のとおりです。

      「消滅時効 に関する規律(商法第589条、第566条)を次のように改めるものとする。

      •  運送品の滅失等についての運送人の責任は、運送品の引渡しがされた日(運送品の全部滅失の場合にあっては、その引渡しがされるべき日)から1年以内に裁判上の請求がされないときは、消滅する。
      •  アの期間は、運送品の滅失等による損害が発生した後に限り、合意により、延長することができる。
      •  ア及びイのほか、国際海上物品運送法第14条第3項と同様の規律を設ける。 」

       これにより、これまでの消滅時効の規律は除斥期間に変更されました。

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