海事Q&A 商法(運送・海商)改正要綱⑯ 物品運送に関する総則は(Ⅳ)

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海事Q&A Q&A

海事に関するよくある質問

商法(運送・海商)改正要綱⑯ 物品運送に関する総則は(Ⅳ)
  1.  不法行為責任との関係
    1.  運送契約書の交付義務
      •  運送人の責任について、運送契約の債務不履行に基づく損害賠償請求権と不法行為に基づく損害賠償請求権につき、どちらを行使してもよいとする請求権競合説と、契約責任の場合は、不法行為責任は排除されるとする法条競合説との学説上の争いがありますが、最高裁は請求権競合説に立っています。
         中間試案では、運送人の契約責任を減免する規定を、不法行為責任にまで及ぼすべきかどうかで議論になりました。
         甲案は、商法には特段の規定を設けないとするもので、現行法上の取扱を維持するものです。その理由は、荷主が不法行為についての重い立証責任を負担してそれが成功した場合にまで、契約責任の場合と同様の責任の減免を認めるべきではない、とするものです。
      •  これに対し、乙案は、商法には、運送人の契約責任を減免する規定(高価品に関する特則、損害賠償の定額化、運送人の損害賠償責任の消滅)があり、これらは、賠償額の範囲を画一的に限定し、又は早期に運送人の責任を消滅させて運送人を保護するものであるところ、その趣旨を全うするためには、減免規定を運送人の不法行為責任にも及ぼすべき、とするものです。
         また、実質論として、契約責任の減免の規律は、責任が重ければ運賃に跳ね返り、荷主にとっても不利益になるのを防止するためであるところ、その規律が不法行為による責任追及で回避されるのでは、意味がないということです。
         これに対しては、例えば高価品に関する特則の適用がある場合、不法行為責任を追及できないと、大幅な過失相殺を経た中間的な賠償額等による裁判での柔軟な解決が、困難になるとの反対意見がありました。それに対しては、商法578条の趣旨からすれば、高価品の明告がない場合に運送人がそのような責任を負うことは不合理との反論がなされました。
      •  次に、仮に乙案によるとした場合、運送契約を自ら締結した荷送人に対する運送人の不法行為責任に、上記の契約責任減免の規定を準用することに争いはありませんでした。
         他方、運送契約の当事者ではない荷受人に対する運送人の不法行為責任に、上記の準用をすべきかどうかについては、更に議論になりました。
         中間試案の乙案の⑴では、運送契約上の運送人の責任減免の規定は、荷受人に対しては、当該運送契約による運送を容認した者に限定して準用すべき、という案とされました。
         これは、最高裁が、荷受人が運送人に対して宅配便約款での責任限度額を超える額の不法行為責任を追及した事案において、荷受人も少なくとも宅配便によって荷物が運送されることを容認していたなどの事情が存するときは、信義則上、責任限度額を超えて運送人に対して損害の賠償を求めることは許されない、としており(平成10年4月30日判決)、これを踏まえたものです。
         この点につき、その後の審議では、運送は公共的なインフラであり、運送契約に基づく運送を容認している荷受人には運送契約法の規律を基本的に及ぼしつつ、容認していない荷受人には、その立証責任を課した上で、適用除外すべきとの意見や、荷受人は運送を容認しているのが通常である等の意見が出されました。
      •  以上から、要綱では、以下のとおりとされました。
        「 運送契約に基づく責任と不法行為に基づく責任との関係について、次のような 規律を設けるものとする。

        1.  商法第578条(高価品)及び第580条(損害賠償額の定額化)並びに(運送人の損害賠償責任)の規定は、運送品の滅失等についての運送人の荷送人又は荷受人に対する不法行為による損害賠償の責任について準用する。ただし、荷受人があらかじめ荷送人の委託による運送を拒んでいたにもかかわらず荷送人から運送を引き受けた運送人の荷受人に対する責任については、この限りでない。」

         なお、荷受人ではない運送品の所有者(盗難被害者等)が、運送中の運送品の滅失等につき不法行為責任を運送人に追及する場合にも、上記の契約責任の規律を準用するかどうか検討されましたが、どのような基準で準用するかについて確定することが困難なため、引き続き解釈に委ねられることとされました。

    2.  運送人の被用者の不法行為責任
      •  運送人の被用者は、その過失ある行為により運送品の滅失等が生じたときは、当然、独立して荷主に対し不法行為責任を負いますが、この責任は運送人が荷主に対し契約責任を負うかどうかとは直接関係がありません。
         甲案は、この点についても商法に特段の規定を設けないとするもので、現行法上の規律を維持するものです。
      •  それに対し、乙案は、運送人の被用者の不法行為責任についても、運送人の契約責任を減免する商法の規律を及ぼそうとするものです。
         その理由は、運送人が負う責任以上の責任を被用者が負うこと自体、適当ではなく、また、何より被用者に重い責任を課すと、被害者は被用者を訴えれば運送人に認められた抗弁を掻い潜ることができ、運送人に認められた種々の責任減免措置が無意味になってしまうということです。
         乙案は、ヘーグ・ヴィスビー・ルールズ4条の2第2項の規定を受けて立法化された国際海上物品運送法20条の2第2項と同趣旨の案です。また、この条約の規定は、運送人の抗弁を被用者にも認めるいわゆるヒマラヤ条項の約款による実務を、条約上も認めたものです。
      •  その後の審議で、乙案が採用され、運送人の被用者の不法行為責任について、要綱では、以下のとおりとなりました。
         「⑵ ⑴により運送品の滅失等についての運送人の損害賠償の責任が減免される場合には、その責任が減免される限度において、当該運送品の滅失等についての運送人の被用者の荷送人又は荷受人に対する不法行為による損害賠償の責任も減免される。ただし、運送人の被用者の故意又は重大な過失によって運送品の滅失等が生じたときは、この限りでない。」
         なお、ここで責任が減免されるのは、国際海上物品運送法と同じく、被用者である履行補助者に限定されます。下請運送人や港湾荷役業者等の独立の契約者に責任の減免を認めるためには、従前のヒマラヤ条項を存置させて対応することになります。
  2.  複合運送

     現代では、陸上運送、海上運送、及び航空運送のうち、二以上の運送を一の契約で引き受ける複合運送契約は非常に多くなっていますが、現行法ではこれを規整する法律はありません。
     それで、その法律関係を明確にするために、新たな規定を設けることとされました。
     まず、複合運送契約も、物品運送であるため、その陸上、海上、航空を通じる総則的な規律は、当然適用があるものとされます。
     そして、複合運送契約の運送人は、基本的には、運送品の滅失等の原因が生じた運送区間に係る法令又は条約の規定に従って損害賠償の責任を負うものとされています。
     審議では、具体例として、荷送人甲が運送人乙との間で複合運送契約を締結し、実際の運送を乙が下請運送人丙に、更に丙が孫請運送人丁に委託(丙・丁は外国の事業者、丁は外国の港間の海上運送)した事例で、丁の運送中に運送品の滅失等が生じた場合に、乙の甲に対する責任がどのような規律によるべきか、議論されました。
     これについては、まず、甲乙間の複合運送契約の準拠法が日本法で、商法の適用があることが前提であって、滅失等が生じた運送区間である外国の港間の海上運送のみを甲から引き受けたとした場合に適用される日本の法令、つまり、国際海上物品運送法に基づいて規律すべき、とする考え方が、中間試案として出されました。 その理由は、日本法を準拠法として契約した甲乙にとって、外国の港間の海上運送に外国法又は条約を適用するよりも、日本の法令又は条約を適用する方が、明確で、予見可能性が高いといえるためです。
     これに対しては、乙の甲に対する賠償責任額は、乙の丙に対する求償額、丙の丁に対する求償額とバランスを取るべきであるという考え方から、丁の外国の港間の海上運送について、当該外国の法令又は条約(ハンブルク・ルールズ等)を適用した賠償額を基準とすべきとする案も出されました。それならば、試案とは異なり、乙が甲に日本法に基づいて賠償した額と丙、丁に求償して行く額とで食い違いが生じにくいと考えられるためです。
     しかし、この案に対しては、日本が批准しない条約を実質上適用することに問題があること、また、丙の丁に対する求償額は丙丁間の運送契約の準拠法等にも左右され、上記の考え方に立ったとしても求償額とのバランスを取ることは容易ではない、との指摘がありました。
     他方、事故発生区間が不明の場合(concealed damage)の運送人の責任については、一定の推定規定を設けることも検討されました(例えば、韓国商法816条2項では、運送距離が最も長い区間に適用される法に従う、とされています。)。審議の結果、運送契約についての総則的な規定の適用で処理することになり、その点につき、当事者間で約款があればそれが優先適用されます。
     なお、この点、JIFFA の国際複合一貫輸送約款22条では、発生区間の証明がない場合は、滅失又は損傷は海上運送中に発生したものとみなし、運送人は国際海上物品運送法等の規定の範囲で責任を負う、とされています。これは、日本が海に囲まれており、海上運送のウェイトが非常に大きいことを考慮したものと解されます。
     以上から、要綱では、試案の考え方に沿って、以下のとおり策定されました。

     「複合運送契約に関し、物品運送についての総則的規律があることを前提に、次のような規律を設けるものとする。

    1.  陸上運送、海上運送又は航空運送のうち二以上の運送を一の契約で引き受けた場合における運送品の滅失等についての運送人の損害賠償の責任は、それぞれの運送においてその運送品の滅失等の原因が生じた場合にそれぞれの物品運送契約ごとに適用されることとなる我が国の法令又は我が国が締結した条約の規定に従う。
    2.  ⑴の規定は、陸上運送であってその区間ごとに異なる二以上の法令が適用されるものを一の契約で引き受けた場合について準用する。」

     この⑵の条項は、陸上では、トラック輸送と鉄道輸送のような異なる運送用具による運送があり、それぞれ運送に関する私法法令があるため、これらを組み合わせて一の契約で引き受けた場合、複合運送となるとしたものです。
     この点に関連し、海上運送で国内部分と国際部分があるものは、全体として一つの国際海上運送契約になります。また、航空運送であって国内部分と国際部分があるものについても、出発地及び到達地がモントリオール条約等の締約国であるか否かに応じて、商法又はいずれか一つの条約が適用される航空運送契約とされ、複合運送にはなりません。
     なお、実際には、これまでのように約款で責任のルールを定めることになります。

  3.  貨物引換証

     現行商法では、陸上運送について貨物引換証に関する規定(商法574乃至575条及び584条)がありますが、近時、利用された実例が見当たらないとして、削除される見込みです。

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