海事Q&A 2015年英国保険法(Ⅰ)

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海事に関するよくある質問

2015年英国保険法(Ⅰ)
  1.  はじめに

     英国保険法(Insurance Act 2015, 以下「IA」)が2015年2月12日に成立し、18か月後の2016年8月12日に発効とされています。1906年英国海上保険法(Marine insurance Act 1906,以下「MIA」)以来の約100年ぶりの保険法の改正であり、日本での実務にも影響がありうると解され、改正の重要点についてみていきたいと思います。

  2.  IA制定の経緯

     英国は、日本とは異なり、判例法主義ですが、海上保険については、MIAがそれ以前の判例を基に制定法として存在しています。MIAは、英国では海上保険以外の保険に適用できる法律がなかったため、他の保険分野にも適用されてきました。
     しかし、MIAも今となっては古く、保険者寄りであり、また、その後も多くの判例が蓄積されているため、保険契約に関する一般的な規定の整備が求められていました。
     それで、2012年に、消費者保険契約を対象とするイギリス消費者保険法(Consumer Insurance (Disclosure and representation) Act 2012)が制定され、次いで、今般、非消費者(事業者)向けの保険契約を対象とするIAが制定されたものです。
     これに伴い、MIAの内、IAと矛盾する条項は効力を失うことになります。
     日本でも、外航用の貨物海上保険では、一切のクレームについての責任及びその決済に関してのみ英国の法律及び慣習に従う、とした英国法準拠条項があります。また、P&I保険でも、英国のP&Iクラブの約款だけではなく、他国のP&Iクラブでも、英国法を準拠法とするものがあります。

  3.  告知義務について
    1.  MIA

       MIA18条(Disclosure by Assured) では、契約の前に、被保険者は、自分が知っている一切の重要な事項を告知する義務があり、通常の業務上当然知っているべき一切の事情については、これを知っているものとみなされ、この告知を怠るときは、保険者は契約を取り消すことができる、とされています(1項)。
       そして、重要な情報とは、慎重な保険者が保険料を定め、又は保険を引き受けるかどうかを決定する際の判断に影響を及ぼす一切の事情、とされています(2項)。
       ただ、リスクが減少する事情、保険者が知っているか又は知っていると推定される事情等は、告知不要とされています(3項)。
       また、MIA19条では、契約締結する代理人による告知の規定が置かれ、20条では、契約締結中の交渉中の表示につき、被保険者側の真実義務が規定されています。

    2.  問題点

       MIAについては、何を告知すべきかを保険者の立場で考えることは困難であること、被保険者が知っているべきことの範囲も不明確であること、その知っているべきなのは誰かが不明確であること、保険者が受け身の姿勢で引き受け、事故後に当初の開示が不十分と非難すれば済む弊害があること、告知義務違反の場合に、どんな場合でも保険者が保険契約を遡って無効にできるのは被保険者にとって酷である、等の問題点が指摘されていました。

    3.  IA
      •  公正な情報提示義務

         IAでは3条(The duty of fair presentation) で、被保険者が知っている又は知っているべき一切の重要な事情を告知しなければならない、とされました(1項、3項(a)、4項(a))。
         この点はMIAと同じですが、さらに4項(b)で、4項(a)の告知ができない場合、重要な事情を明らかにするために、さらに質問をすることが必要であると慎重な保険者に認識させるための十分な情報を告知しなければならない、とされました。つまり、被保険者からの注意喚起に足る情報の開示があれば、それ以上は保険者の方が質問して事情を明らかにさせるべきで、それでも質問しなければ、被保険者に責任はないということです。開示責任が一定段階で保険者に転化されることになります。
         同条の規定の新設に伴い、MIA18条乃至20条は削除されます(IA21条2項)。

      •  被保険者の認識内容

         この点につき、4条(Knowledge of insured)で、被保険者が法人の場合、被保険者の1人又は複数のシニアマネジメント又は保険責任者が知っていることだけが、被保険者の知っていることとされました(3項)。
         ここで、シニアマネジメントとは、被保険者の活動がどのように管理、組織されるかを決めるについて重要な役割を果たす者を言います(8項c)。また、保険者のために保険を手配しようとする者は、その従業員か代理人かを問わず、保険責任者とされています(8項b)。
         さらに、被保険者は、利用可能な情報を合理的に調査することによって得られたであろう内容は、知っているべきこととされています(6項)。

      •  告知義務違反の効果
        1.  告知義務違反の場合に保険者が救済を受けるには、8条(Remedies for breach) で、まず、公正な情報提示義務違反がなければ保険者は保険契約を締結しなかったであろうこと(1項a)、又は、異なる条件でのみ保険契約を締結したであろうこと(1項b)を、立証することが必要とされています。
        2.  また、告知義務違反の場合の救済手段が一律取消ではなく、段階分けされています。
        3.  すなわち、被保険者の故意(deliberate)又は無謀行為(reckless)の場合は、保険者は保険契約を取り消して保険金の支払いを拒否でき、且つ、受け取った保険料も返還する必要もありません(8条2項、附則1の2項)。そして、被保険者が義務違反を知っている場合又は義務違反かどうかを気にしていない場合は、故意又は無謀行為に当たるとされています(8条5項)。
           故意又は無謀行為の立証責任は、保険者にあります(8条6項)。
        4.  他方、上記事由がいずれもない場合は、以下のとおりです。
           義務違反がなければ契約を締結していなかった場合は、保険契約を取り消せますが、保険料の返還は必要です(附則4項)。
           次に、義務違反がなければ、異なる条件で契約をしていたであろう場合は、その異なる条件が当該保険契約にあるものとして扱うことができます(附則5項)。
           更に、義務違反がなければ、高い保険料を要求したであろう場合は、保険者は保険金請求の額に応じて比例して減額して支払えばよいとされました(附則6項)。例えば、義務違反がなければ保険料が3倍になっていた場合、保険者は保険金請求額の3分の1を支払えばよい訳です。

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