海事Q&A 船主責任制限法の改正(2015年)

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海事に関するよくある質問

船主責任制限法の改正(2015年)
  1.  1976年の海事債権についての責任の制限に関する条約を改正する1996年議定書(以下「96年議定書」)の改正に伴って、船主責任制限法の責任限度額を1・51倍に引き上げる改正が、2015年4月24日に成立しました。条約改正の効力が生ずる日に合わせて、同年6月8日に発効しています。この改正の概要をみてみたいと思います。
  2.  経緯

     2009年3月に、オーストラリア東部沖合で大規模な燃料油流出事故が発生しました。香港籍のパシフィック・アドベンチャラー号(23、737DWT) から約270トンの燃料油が流出し、観光資源を破壊する海岸地帯の大規模な汚染に至ったものです。
     この汚染損害が、96年議定書の責任限度額を大きく上回っていた(約2倍とされています。)ことがきっかけで、2010年にIMOで、いわゆるタシット方式(tacit acceptance procedure)による責任限度額の引き上げの提案が、オーストラリアを含む20カ国によりなされました。同方式は、改正案採択時から一定期間内に一定数の異議通知がない限りは改正を受諾したものと見做される手続きです。
     IMOでの審議後、2012年4月、96年議定書の責任限度額を1・51倍に引き上げる旨の改正が採択されました。この引き上げ率は、96年議定書の当時から各締約国の2012年までの通貨価値の変動につき加重平均により算出されたものです。
     同年6月8日に各締約国に通告され、18か月以内の2013年12月8日までに4分の1以上の異議通知がなかったため、受諾したと見做され、その18か月後の2015年6月8日に、全ての締約国で改正の効力が生じることとなりました。それで、96年議定書の締約国の日本でも、1・51倍に引き上げる改正が必要になりました。
     なお、今回の条約改正の対象は96年議定書であり、1976年責任制限条約を批准していても、96年議定書を批准していない国や両方とも批准していない国(米国等)で責任制限手続きを行う場合は、対象外です。96年議定書の主な批准国は、日本、英国、フランス、ドイツ、ノルウェー等で、76年の条約しか批准していない国は、シンガポール、UAE、バハマ、イラン、エジプト等です。

  3.  改正内容

     今回の改正で、責任限度額は以下のとおり変わりました。

    1.  物的損害のみの場合
      トン数 責任限度額
      100トン 未満の木船 507、360SDR
      2、000トン 以下 1、510、000SDR
      2、000トン 超
      30、000以下
      1、510、000SDR +
      604SDR×(トン 数-2、000)
      30、000トン超
      70、000トン以下
      1、510、000SDR + 604SDR×28、000 +
      453SDR×(トン 数-30、000)
      70、000トン超 1、510、000SDR + 16、912、000SDR + 453SDR×40、000 +
      302SDR×(トン 数-70、000)
    2.  人身損害を含む場合(人身損害のみ又は人身損害と物的損害の場合)
      トン数 責任限度額
      2、000トン 以下 4、530、000SDR
      2、000トン 超
      30、000以下
      4、530、000SDR +
      1、812SDR×(トン 数-2、000)
      30、000トン超
      70、000トン以下
      4、530、000SDR + 1、812SDR×28、000 +
      1、359SDR×(トン 数-30、000)
      70、000トン超 4、530、000SDR + 50、736、000SDR + 1、359SDR×40、000 +
      906SDR×(トン 数-70、000)
    3.  具体例 (1SDRを 141円として試算)
      トン数 物的損害 人身損害を含む場合
      50トン木船 約7、154 万円
      1、500トン 2億1、291 万円 6億3、873 万円
      9、000トン 約 8億0、906 万円 約24億2、718 万円
      35、000トン 約29億1、687 万円 約87億5、060 万円
      120、000トン 約72億8、152 万円 約 218億4、457 万円

    (SDRのレートは、http://www.imf.org/external/np/fin/data/rms_five.aspx

  4.  実務への影響
    1.  船主責任制限法の責任限度額の引上げで、当然ながら、P&I保険の保険金額が引上げ後の限度額を下回っていないことが必要です。
       また、船舶油濁損害賠償法により、100トン以上の国際航海に従事する日本籍や日本に入出港する外国籍船は、対象損害として、燃料油による油濁損害及び船骸撤去費用のいずれも填補する保障契約を締結する義務があります(同法39条の4、39条の5)。その際の最低保険金額は、人損を含む場合の責任限度額と物損のみの場合の責任限度額を合計した金額以上である必要があり、引上げ後の責任限度額に沿って要件を充たすことが必要です。
    2.  なお、船骸撤去費用については、1976年の条約が認める留保権の行使により、日本の船主責任制限法では制限債権(同法3条)から除外(Opt-out) されています。これは、制限債権とすると船骸が却って放置されるリスクが高くなる等の事由によります。
       船骸撤去費用には一般に莫大な費用が掛かるため、引上げ後の責任限度額を充足する保険金額の保険を手当てしても、実際の賠償額には不足する可能性は残ります。

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